ゆっくり顔を近付けていく。
本当に眠ってんのか?
そう疑いたくなるほど、アンナはまつげ一本動かさず、静かに眠り続けていた。
それでも、互いの鼻先が触れそうなほど近くなると、彼女の微かな体温を肌に感じる。
顔の位置はそのままに、葉は眼球だけを動かし、アンナの閉じられた瞳を凝視した。
普段はあんなにも鮮やかに彼女の瞳を縁取り、その目元に濃い影を落とすまつげはしかし、
こうして近くで見ると色素も薄く頼りなさそうに見えた。
そっと顔を傾け、片方だけ、まつげを触れあわせた。
アンナの細く目の詰まったまつげで、自分のまつげを梳くように。
聞こえるはずも無いのに、擦り合わせたまつげが、サラサラと音を立てた気がした。
まつげとまつげを軽く絡ませたまま、葉はアンナの香りをかぐ。
切なくなるほど甘い香りにウットリする。
全く肌は触れあっていないのに、体が芯から温かくなった。
近づいた時と同様に、ゆっくりと体をアンナから離す。
「なんだか、くすぐってえな」
葉は微笑を浮かべてつぶやいた。
そのまま優しく名残を残して、葉は部屋を出た。
触れるか触れないかの優しいキス。
「Butterfly Kiss」
【アトガキ】
初SS。
バタフライキスをテーマに。
まつげを頬っぺとかにパタパターっと蝶のように叩かせるキス。
嫁のまつげは長いから遣り甲斐がありそうだ。