風呂上がり。
葉が自室へ引き上げようと階段を上がると、アンナが立って手招きをしている。
葉が近寄って、
「なんか用か?」
と尋ねるとアンナは、
「話したいことがあるの。今からあたしの部屋に来て」
と葉の手を引く。
珍しいこともあるもんだとは思ったが、ふらふらと誘われるまま、葉はアンナの部屋に足を踏み入れた。

薄暗い室内。
綺麗に整えられた部屋の中央には布団が敷かれている。
こんな時間に二人っきりで明かりもない部屋にいると、否が応でもそちらに意識がいき、あらぬ期待をしてしまう。
そんな葉の胸の内を知ってか知らずか、アンナは真っ白なシーツの上にぺたんと座り込む。
アンナはしどけなく浴衣を着崩したまま、花のような微笑をみせて葉を見つめる。
彼女の目に招かれるように、葉はにじり寄っていった。
こんな誘うような魅力的な顔をされて、何もしないなんて、「据え膳食わぬ」はなんとやらと、葉は誘われるままにアンナに覆い被さった。


その夜のアンナはいつになく、大胆に振る舞った。
自ら上になったり、食らいつくように葉自身を口に含んで愛撫した。

葉はこれまでこんな淫靡な彼女を見たことが無かったので、天にも昇る心地だった。
夢中で、時のたつのも忘れて貪るように彼女を愛した。


やがて夜も更け、激しい情事のあとなので、葉はうとうととまどろみかけていた。
すると、葉の腕に抱かれていたアンナがふいに口を開いた。

「ねえ、葉」
「なんだ、アンナ」
今にも寝入ってしまいそうな眠気を含んだ葉の声を気にもせず、アンナはどこか楽しそうに話しかけた。

「あたしたちは夫婦よね?」
「おお」
「じゃあ、もう生きるも死ぬも一緒で、あたしの言うことは何でも聞いてくれるわね」

ほとんど意識を飛ばしかけていた葉は、深く考えもせずそうだと答えた。


するとアンナは葉の手を取り起き上がらせると、いきなり葉の手首を掴み、脱ぎ散らかしていた帯を器用に結びつけた。
そのまま、どこからか取り出した縄で葉を縛り付けると、脱げかけた浴衣をはぎ裸にして、後ろ向きにしっかりと結わえつける。
突然のことに葉はあっけにとられながらも、どこか遊びをしているような高揚感を覚えていた。


アンナはいつの間にか着込んでいた浴衣を肩脱ぎすると、革のベルトを持ち、葉の背中をしたたかに打ち据え始めた。
アンナはその細腕からは想像できない力をふるい、その顔は次第に上気していく。

八十も打ったころに、
「どう?痛くない?」
と優しい声音で尋ねる。
葉が見栄を張って、
「全然たいしたことねぇよ」
と答えると、
「さすがあたしのダンナね」
と嬉しそうに微笑んで葉の唇を自分のそれで塞いだ。

そのまま縄を解いて、葉を布団の上に寝かせる。
背中の鋭くも鈍い痛みに葉が暫く耐えていると、アンナは台所から持ってきた白湯を抱き起こしながら与えてくれた。
しかし、葉はひきつるような痛みで口もろくに開けられず、うまく溜飲できない。
するとアンナは白湯を口に含み、優しく葉の口に流し込んできた。
彼女の柔らかく、少しひんやりとした唇や、ぬらぬらと動く舌の滑らかさや、湯の生温かさがたまらなく気持ち良かった。

白湯を飲ませ終わると、今度は傷の手当てを念入りにしてくれた。
そうしたアンナの至れり尽くせりの介抱は葉の体も魂もとろけさせた。



三日後。


ようやく背中の傷が治りかけると、アンナは再び自分の部屋に葉を連れ込み、前と同じようにして打ち据えた。
やっと塞いだ傷口はたちまち裂け、血が溢れてくる。
その鮮やかな赤い色を見て、アンナは顔中に喜色を浮かべた。

葉を打ち据えながら、また
「どう?まだ我慢できる?」
とアンナは上気した顔で、優しげに問う。
葉は、
「こんなのちっとも痛くねえ、もっと…もっと打てよアンナっ」
と無我夢中で叫ぶ。
するとアンナは感心したように、うっとりとした瞳で葉を見つめる。
自分を打つことで、彼女の白い顔が紅く染まり、陶酔するような表情を見せることに、葉は言い様もない悦びを感じた。

その後の介抱は前より優しく念入りだった。
手当てもそこそこにアンナと交わる。

三日ぶりの性交。
激しく動く度、先ほど受けた傷が刺すように痛む。
しかし、熱くぬめる女性器を突き上げるほどに、下半身から受ける快感が占める割合の方が大きくなっていく。
痛いのか気持ちいいのか、自分の感覚さえ掴めない。
痛みに顔をしかめる葉を見て、息も絶え絶えに喘ぎながらもアンナは嬉しそうに微笑む。
その顔はなんとも冷酷で妖艶で、この世のものとも思えない。
そんなアンナの氷のような微笑を見て益々興奮する自分を葉は自覚していた。

痛みの残る体で絡み合うのが、こんなにも、かつて覚えのないほどに快楽を誘うものだということに葉は初めて気が付いた。

こんなことが数日おきに数回繰り返された。
アンナは回を増す毎に、とめどなく優しく情熱的になっていった。

葉は心の底から、この女のためなら、この快楽を得るためなら、もう何をしてもいいと思うようになっていた。
それは彼女の願い通りの展開だったのだけれども…












【アトガキ】
バレちゃしょうがないオマージュ小話。
1,000年に及ぶSとMの世界v
嫁を縛るのもイイが、旦那が縛られるのもイイと思うの☆